いつか見たイラン映画の風景を探して
いつか見たイラン映画の風景を探して
この度、Iran Travelling Centerさんの個人ツアーを利用して6日間の日程でイランの北西部を旅行しました。
今回が私にとって初めてのイラン旅行でした。
イランでは、外国人にとってシーラーズやイスファハンといった中南部がメジャーな観光スポットですが、あえて北西部を選んだのには理由がありました。
高校生の時に、マジッド・マジディ監督の「太陽はぼくの瞳」という映画を偶然テレビで見ました。
イランには、砂漠の荒野といったイメージがありましたが、この映画で舞台となった北部は、山村の花と緑に覆われた大自然が美しく、イランではできれば映画の原風景に触れられる地域に行きたいと思っていました。
入国の初日はガイドさんとテヘラン駅で合流して夜行列車で、北西部のタブリーズに向かいました。
2日目のタブリーズでは、世界遺産となっているバザールやブルーモスクに加えて、郊外にあるキャンドヴァンなどを観光しました。
バザールは迷路のように入り組んでいて、生鮮品から日用雑貨まで色々なお店があります。このバザールでお土産として買ったピスタチオやナッツは非常に好評でした。
キャンドヴァンはイランのカッパドキアともいわれ、丘陵に洞窟を掘って人々が暮らす集落です。褐色の景色に、集落にあるお店の果物や民芸品のカラフルな色合いのコントラストで異国情緒にあふれる場所でした。
3日目には、タブリーズから東側のアルダビルに向かいました。移動中に見た5,000M近い標高を持つサバラーン山や、その他の山岳風景、また所々に残る残雪はとても美しい景色で、ずっと見ていても飽きないものでした。
アルダビルでは、世界遺産でイランにおけるシーア派発展のルーツでもあるシェイフ・サフィーオッディンの霊廟や、郊外の温泉サル・エインなどに行きました。
この霊廟の青のタイルは美しく、世界遺産にふさわしい威容でした。
サル・エインは温泉街で、たくさんの公共浴場や温泉旅館があります。私が入った温泉は茶色く、硫黄の他に鉄も含んでいるように感じられました。
広い浴場に、日本の銭湯にもよくある座風呂などもありますし、サウナやマサージルームもあります。日本と同じくイランにも入浴文化があることに親近感を感じました。
4日目には、アルダビルから東に山を越えて、アゼルバイジャンとの国境沿いからカスピ海に出て、その沿岸を東進しラシュトまで向かいました。
この日は非常に天候が悪く、アルダビルからの山越えの際には雪が降り、あたり一面が雪化粧になっていきました。
峠から下りに入ると左手にアゼルバイジャンとの国境の柵が見え、一転して木々の緑がとても多くなります。雪も雨に変わりました。
カスピ海が近くなると、田園風景が広がります。アスタラでカスピ海の砂浜に出ました。ちょうど漁の最中で漁師が網でたくさんの魚を収穫していました。
この様子を見ている地元の観光客もたくさんいました。ここで獲れるマーヒー・セフィードという魚はイランではポピュラーな魚のようです。
食べる機会がありましたが、身もぷりぷりしていておいしかったです。
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その後、ラシュトの近郊にあるルード・ハーン城跡に行きました。
ルード・ハーン城跡は、山の上にあるセルジューク朝が建てたともいわれるレンガでできた城塞です。ここはイランでも人気の観光地のようで、駐車場に入るまでも非常に渋滞していました。まだ寒い時期ながら空地や駐車場にテントを張ってキャンプを楽しむ人々も多くいました。
ネオンの輝く茶屋街で昼食をとった後、きれいに整備された山道を上りました。山道の途中でもお土産屋や茶屋がたくさんありました。木々は緑色で滝が流れ、沢の水の音に小鳥のさえずりと、日本と変わらぬような風景でした。
小雨が降り続ける悪天候にも関わらずとても多くのイランの人々が登っていました。
霧が多く全貌を見渡すことができませんでしたが、城域は広く見て回れないほどで、また衛兵の詰所や祈祷するための部屋など小部屋も多くありました。なぜこんな山上にこれだけ立派な城を築いたのか不思議に思いました。
5日目は、ラシュト郊外のマースーレを観光しました。
マースーレは、山の斜面に何層にもなって家が立ち並ぶ集落で、さながら段々畑のようです。下の家の屋根が道や上の家の庭になっています。褐色の落ち着いた街並みは、日本の古い町並みにも通じるものがありました。
6日目は、個人でテヘランの市街を散策しました。
あいにくの雨となり、あまり広くは見て回れませんでしたが、ゴレスタン宮殿や考古学博物館、旧アメリカ大使館などを見て回りました。
ゴレスタン宮殿は18世紀から20世紀初頭のカージャール朝の宮殿ですが、鏡張りの内装にシャンデリアの光が反射し、煌びやかに輝く内装が印象的でした。
日本や中国の陶器や西洋絵画などのコレクションも、当時の王室の権勢を感じさせました。
個人旅行ならではの、イランの人々との触れ合いもたくさんありました。
テヘラン駅の食堂では、見知らぬおじさんが興味を持って話しかけてきました。梨やナツメヤシの実までご馳走になりました。
また駅の構内で空いている二階の待合所に案内してくれた駅員さん、夜行列車の中で荷物を気にしてくれたおじいさん、特に若い人はとても興味を持ってスマホで一緒に写真を撮ったり、握手をしたり、メールアドレスを交換したりといった経験を至るところでしました。
また、お土産屋さんでも、街中のお店でも、非常に値段も安く、外国人だから「ふっかけられている」と感じることもありませんでした。こうしたことからも、イランの人々は親切で優しく、人との垣根を作らず、そして好奇心が強い人たちだという思いを強くしました。
駅のモスクの中に入ったり、カスピ海の漁の様子を間近で見たり、モスクのお坊さんと会話したりといった経験も個人旅行ならではの経験でした。
こうした経験は、どうしても日本人同士での行動が多くなる団体旅行ではなかなか味わえないことだと思います。
イランはノウルーズ(旧正月)期間中ということもあり、どこもイラン人の観光客でごった返していましたが、日本人を始め、外国人の観光客と会うことは殆どありませんでした。
日本のガイドブックでもあまり紹介されていない地域ですが、ガイドさんがいうにはイランの人々は逆に日本人を珍しがって喜んでくれたようです。ぜひこれから旅行される方にはお勧めしたいコースです。
イランはアメリカやイスラエルとの対立や、アフガニスタン、イラク、シリアなど政情の安定しない国々に囲まれている状況や、これらの国々との混同からネガティブな印象を持たれがちです。
しかしこの旅行中、治安も政情も安定し、物資も溢れ、想像以上に安定した強靭な国であると感じました。女性に対してもスカーフ、ヒジャブの着用などの宗教的な規則はありますが、女性の社会進出も進んでおり、単純に「抑圧」とは形容できない自由さがあると感じました。
イランの人々の信仰心の篤さにも感じ入りました。
シーア派では礼拝は一日3回行います。街中では決まった時間にアザーンが流れ、モスクや礼拝所でも、代わる代わる人々が訪れ、熱心に礼拝する様子を見ました。ガイドさんも早朝から熱心に礼拝をしていました。
昨今、日本では「イスラム国」によるテロなどが頻繁に報道され、イスラム教一般と混同される問題が発生していますが、人々との交流を通じて、改めて、宗教とテロリズムとは無縁のものであると感じることができました。
最後に、この旅行中、ガイドさんや運転手さんには大変お世話になりました。
ノウルーズ期間中でお休みしたい時期だったと思いますが、お蔭様で限られた時間の中で、安全に様々な場所を見て回ることができました。
次回に旅行する際には、ぜひシーラーズやイスファハンにも訪れてみたいと思います。
佐々木(敬称略)
旅行日:2017年3月18日~23日